アケビのつるが紡ぐ、持続可能な冬の手仕事
冬の飯豊連峰に抱かれた小国町で、カリカリと乾いた音が響く。手のひらでよじれたアケビのつるが、まるで生きているかのように絡み合っていく――これは単なる手工芸ではない。雪深い地に暮らす人々の知恵が、現代に蘇る持続可能なサバイバル術だ。
「9月の初め、つるが紅茶色に染まるほんの数日間だけが採取の旬なんですよ」と語るのは地元のベテラン職人。小国町のつる細工は、アケビやヤマブドウの自生するつるを原材料とする徹底した地産地消が特徴だ。秋の初めに山に入り、弾力と強度を兼ね備えたつるを選別する作業から始まる。採取時期を逃せば色が黒ずみ、編み上がりの美しさが損なわれるというから自然との対話は神経を尖らせる戦いだ。
採取したつるは乾燥させ、編む前に再び水に浸す。この時、湯加減によって柔らかさが変わるため「職人の経験値がモノを言う」と講習会の指導者が教えてくれた。1月23日から25日にかけて国民宿舎飯豊梅花皮荘で開かれた講習会では、県内外から集まった50人もの参加者が3日間の合宿形式で技術を学んだ。
「最初は硬くて思うように編めなかったのが、つるが体温で温まるうちに自然と手になじんでくるんです」と話す東京からの参加者。指導者陣は地元の愛好者たちで構成され、生活用具としての実用性と芸術性のバランスを重視する。「ザルの目は6ミリ間隔が理想。米が漏れず、研いだ包丁の水分も切れる」という具体的な数字に、機能美へのこだわりが窺える。
歴史を遡れば、つる細工は冬場の現金収入源として発達した。プラスチック製品の普及で一度は廃れかけたが、2010年代から持続可能な工芸として再評価が進む。町観光協会のデータによると、講習会参加者は10年で3倍に増加。「材料調達から製作まで完全に地域内完結する点が、SDGs時代に合致している」と担当者は分析する。
若手職人・熊谷茜さんが営む「kegoya」工房では、伝統技法に現代的なデザインを融合させた山葡萄バッグが人気だ。「山で採取した素材には、一つとして同じものがない。不揃いな個性をどう活かすかが面白い」と彼女は創作の真髄を語る。工房の軒先には野生のクルミの樹皮が干され、季節の移ろいを告げている。
完成品は生活に溶け込む実用美が身上だ。ある主婦は「スーパーの袋がわりに野菜を入れると、通気性が良くて鮮度が保てる」と実用性を絶賛する。観光協会の調査では、講習会参加者の87%が「自作の籠を日常使用している」と回答。伝統工芸でありながら生活に根ざした持続可能性を体現している。
ふと講習会場を見渡せば、20代の女性がスマホで編み方を動画撮影している。「Instagramで#つる細工 のタグが1万件を超えたんですよ」と話す彼女の指先には、山葡萄で編んだモダンなショルダーバッグが揺れていた。
冬の小国町を訪れるなら、ぜひ国民宿舎飯豊梅花皮荘の炉端で温まりながら、地元職人とともにアケビのつるを編む体験を。指先から伝わる自然の温もりが、きっとあなたの生活に新しい彩りを添えてくれるはずだ。