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『生米パン』革命-鰺ヶ沢発、一粒の米が奏でる新食感

『生米パン』革命-鰺ヶ沢発、一粒の米が奏でる新食感

日本海の荒波が描く水平線と、その青を継ぐような棚田風景。青森県鰺ヶ沢町に足を踏み入れると、いつも「生命の循環」を感じさせられる。そんな土地で今、一粒の米が新しい奇跡を生み出している。

パンを試食する町長 「これは…米なのにモチモチした食感が!」 2024年7月18日の鰺ヶ沢町役場。平田衛町長が生米パンを口にした瞬間、驚きの声が自然と溢れた。全国でも珍しい「生米100%」で作るこのパンは、町の新たな顔となるべく誕生した逸品である。

■ 米粉パンとは全く異なる「生米パン」の核心 炊飯ではなく「生米を高速ブレンダーで粉砕」するという製法が全ての始まりだった。レッドホースコーポレーションの開発担当者・田中氏は語る。 「通常の米粉パンは乾燥粉砕した米粉を使用しますが、生の状態で粉砕することで水分を閉じ込めることに成功しました。まっしぐらの旨みが凝縮された、まるでおにぎりのようなふわもち食感が特徴です」

町が誇るブランド米「まっしぐら」こそがこのパンの根幹だ。寒冷地で育つ粘り気の強い特性が、通常の小麦粉パンには出せない独特の咀嚼感を生む。開発背景には、全国的な米消費量減少(2022年度国民1人あたり50.9kg)という課題があった。

開発メンバー ■ 交差した二つの挑戦 開発の軌跡は、町の切実な願いから始まった。2023年、ふるさと納税支援を手掛けるレッドホース社に寄せられた町の要望は明快だった。 「まっしぐらを使った新商品で、農家の未来を切り開きたい」 ここで白羽の矢が立ったのが、同社のベテラン開発者・佐藤亮太氏だった。道の駅むなかたで九州No.1の売上を達成した実績を持つ彼は、鰺ヶ沢の風土と真剣に向き合った。

新しい特産品を考える過程で浮上したのは「米料理の固定観念を打ち破ること」。現地調査を重ねる中、偶然出会った地元農家の言葉が突破口を開く。 「この米は炊かなくても美味いんだ」。その発言が、「生」のまま加工するという発想の転換を生んだ。

■ 町民と共に育てた商品開発 完成までの道程は平坦ではなかった。最初の試作品は「匂いが強すぎる」「食感がベタつく」と難題続き。しかし諦めなかった開発チームは町内各所で試食会を繰り返し、住民の声を直接反映させていった。

特にこだわったのは保存性。地元主婦から「子どものおやつに手軽に食べさせたい」との要望を受け、アルミ包装で日持ち向上を実現。2024年8月、ついに地層処分予定地の町が、未来を託せる新商品を手に入れた。

商品写真 ■ 海鳴りと共に広がる可能性 現在、生米パンは町のふるさと納税返礼品(11,000円以上)として人気を博している。楽天市場では「初めての食感」「自然な甘みがくせになる」とレビューが相次ぐ。さらに地元カフェでは、朝食メニューとして「鰺ヶ沢モーニングセット」に採用されるなど、着実に市民権を得つつある。

この秋からは、原料となる「まっしぐら」の生産拡大プロジェクトも始動。漁師町と農家が支え合う鰺ヶ沢らしい新たな連鎖が生まれようとしている。日本海の風が運んだ一粒の革命は、きっとこの町の未来を形作るに違いない。

鰺ヶ沢を訪れた際は、是非とも「生米パン」を片手に町を散策してほしい。岩木川河口のカモメの声と共に味わう一口は、この土地の持つ豊かな可能性を教えてくれるだろう。

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