撃つ瞬間から始まる極上ジビエ ― 美唄Bistro Montagneの挑戦
秋の訪れとともに、北海道美唄市の山々は紅葉に染まり、猟期が本格化する。そんな季節の節目に、街の中心部にひっそりと佇む小さなビストロが、ハンター兼シェフ山本峻也の手によって「撃つ瞬間から調理が始まる」という信念を体現する場としてオープンした。
2026年4月10日、美唄市東1条南3丁目1-11にグランドオープンした「Bistro Montagne(ビストロ モンターニュ)」は、株式会社Mt.が運営するエゾシカやヒグマなどのジビエ専用食肉処理場と、ビストロフレンチという異色の融合形態だ。山本さんは2022年にMt.を設立し、以来「狩猟から食卓までの一貫した流れ」を追求してきた。彼の信条は単なるキャッチフレーズではなく、実際に銃弾が命を奪う瞬間から、血抜き・熟成・調理までを一貫して管理するという徹底ぶりだ。
この独自の血抜き方法は、実は美唄に古くから残るアイヌの秘伝に由来する。山本さんは若かりし頃、地元のアイヌ猟師に何年も弟子入りし、血を抜くタイミングや塩加減、さらには肉の繊維を壊さない切り方までを身につけた。その結果、エゾシカ肉は臭みがなく、むしろ深い旨味とほのかな甘みを残す仕上がりになる。取材時に山本さんはこう語った。「"獲った瞬間が最高の状態だから、そこから手を離さない。血が残れば臭みになるし、過剰に冷やせば硬くなる。感覚と経験でこそ、本当の味が引き出せる"」
オープニングレセプションでは、桜井恒美唄市長をはじめとした22人の関係者が集まり、地元で採れたウドやニジマスとともに、エゾシカのロースト、ヒグマのパテ・ド・カンパーニュ、そして季節の山菜を使ったソテーが振る舞われた。ワインは北海道産のピノ・ノールと、ノンアルコールでは山ぶどうジュースがペアリングされ、参加者は「ジビエなのにクセがなく、まるで高級和牛のような繊細さ」と驚きを隠せなかった。
店内は木の温もりが感じられるカウンター席と、少人数向けのテーブルが並ぶ。壁には山本さんが猟期中に撮影した風景写真が飾られ、訪れる客は食事と同時に美唄の自然を感じられる。メニューはアラカルト中心で、その日の仕入れによって変わる「今夜だけの一皿」を楽しめるのが特徴だ。代表的な一品として、「エゾシカのロースト 赤ワインソース」は、低温調理でジューシーに仕上げた肉に、香り高いブルゴーニュ風ソースを絡め、付け合わせは採れたての山わさびと根セロリのピューレ。一口食べると、まず広がるのは鉄分の豊かな風味、続いて舌の上でほろりと溶ける柔らかさ、そして後味に残るほのかな甘みが、山本さんの血抜き技術の賜物だと実感できる。
さらに、ヒグマの肉を使った「ヒグマのテリーヌ」は、脂身が少ないために丁寧に低温で火を通し、ナッツとドライフルーツを加えて食感にアクセントを付ける。提供される際は、黒コショウとタイムの香りが立ち、ワインとの相性は抜群だ。山本さんは「ヒグマは扱うのが難しいが、だからこそ敬意を持って調理したい。無駄なく、全部を味わってほしい」と語り、その姿勢が料理に宿っていることを感じさせた。
美唄市はかつて石炭産業で栄えた町だが、近年は自然観光と地元資源の活用が注目されている。エゾシカは北海道固有種であり、個体数の管理が求められる中で、適切な狩猟と食肉利用は地域の生態系保全にもつながると考えられている。Mt.はただ肉を提供するだけでなく、狩猟者への講習会や、血抜き技術のワークショップも開催し、持続可能なジビエ文化の醸成に努めている。
取材を終えて、店を出る際に山本さんが手渡してくれたのは、エゾシカのジャーキーと、手書きの感謝状だった。その紙には「美唄の山と共に、今日も一つの命を頂く」と書かれており、猟師としての誇りとシェフとしての感謝が込められていた。
今週末はぜひ、美唄市東1条南3丁目1-11へ足を運んでみてほしい。予約は電話またはInstagramのDMで受け付けており、当日の仕入れによって変わるメニューに出会える喜びは、まさに「自分だけの一夜」を約束してくれる。秋の深まりと共に、エゾシカの持つ奥深い味わいを、ハンター兼シェフの情熱とともに味わってみてはいかがだろうか。