町長がYouTuberに? 外ヶ浜町の“海風プロモーション”
津軽海峡の濃い青を背に、海風が頬を撫でる。あの竜飛岬から、地元の町長がカメラの前に立っている。演歌の世界で有名なこの地で、青森県外ヶ浜町の山﨑結子町長が、自らマイクを握り、町の魅力を語り始めた。『首長と やってみた』というYouTube番組でのことだ。自治体のトップがSNSで地域を売り込む。その『意外性』が、まず私たちの目を引く。
しかし、深掘りすれば、そこには『地域性』と『季節感』が、息づいている。外ヶ浜町は、津軽海峡と陸奥湾の二つの海に面する。四季を通じて、海の表情が激しく変わる。春の眩しい光、夏の燦々とした陽射し、秋の物哀しい霧、冬の凛とした氷景色。町長の動画は、この移ろいを逃さず、捉えている。
追加取材で分かった、具体的なエピソードがある。町の公式YouTubeチャンネルを見ると、単なる観光PRを超えた、多様なコンテンツが並ぶ。令和5年9月には『ゼロカーボンシティ宣言』。環境意識の高い町としての姿勢を、住民に発信する。同じく9月には『お山参詣(上小国地区)』。地域の伝統行事を、若い世代にも伝えるための記録だ。『防災訓練講座』に至っては、資料動画として公開され、住民の安全意識向上に直結している。
さらに、地元民の視点も見逃せない。あるブログにはこうある。「外ヶ浜町に興味を持ったのは、ロードバイクで訪れたのがきっかけ。陸奥湾沿いの美しい景色に心奪われた」。この町は、 Transport(交通)の不便さが逆に、自転車やバイクでの旅人を惹きつける、ある種のロマンスを生んでいる。新幹線開業で「逆風」となった過去(東洋経済記事)もあるが、それが「ゆっくり味わう旅」という新たな価値を生んでいるのかもしれない。
町長のYouTube活動は、単なる「niceな町」の紹介ではない。むーもん館という新施設のリポートも、地域の文化資源をどう未来につなぐかという、真剣な議論の一部だ。『ふるさと自慢わがまちCM大賞』でアイディア賞を受賞した『外ヶ浜町のつくりかた』という作品もあり、町づくりの「方法論」まで発信している。
ここで重要なのは、町長が「出演者」であると同時に、「視聴者」でもあるかもしれない点だ。彼女自身が、町の日常を切り取り、編集し、世に出す。そのプロセス自体が、DX(デジタル変革)の推進と謳われる、地方創生の一環として位置づけられている。少子高齢化という共通の課題を前に、デジタルツールを「使う」だけでなく「操る」ことで、外ヶ浜町は持続可能なまちづくりを目指している。
春の桜吹雪、夏の漁火、秋の紅葉に冬の流氷。YouTubeの画面を通じて、これらの季節の贈り物が、全国津々浦々に届く。町長が海風に髪をなびかせながら話す動画は、固定概念を超える「生き生きした行政像」を私たちに描き出す。
今週末、あなたの指先が求めるのは、スマホでスクロールする無数の動画かもしれない。だが、たまには、津軽海峡の波の音が聞こえてきそうな、この町のチャンネルを開いてみてはどうか。海と共に生きる人々の、確かな息づかいが、そこにはある。