さしこん茶の間が紡ぐ、小城の味と人をつなぐ時間
『茶の間』—その言葉に、どこか温もりを覚えるのは私だけだろうか。
小城市の江里山公民館で開かれた『さしこん茶の間』。その名の通り、さしみこんにゃくを媒介にした生産者たちの交流の場だった。通常のこんにゃくとは一線を画す、この地方独自の食文化『さしみこんにゃく』。textureはまるで刺身のようで、薄く切り、酢味噌をつけて食べる。新年の鏡餅のように、ハレの日に食される伝統の味だ。
追加取材で見えてきたのは、『さしこん茶の間』が単なる製品PRを超え、地域の風土と人々の絆を再確認する儀式的な集いになっていることだった。佐賀市、神埼市、多久市からも生産者が集まり、15人が汗を拭きながら、製法の違い、味の深め方、Consumerへの想いを語り合った。
江里山地区独特の製法に、灰汁(あく)がある。胡麻殻の灰から作る灰汁を使う。この土地の風土が、食の技術に深く根付いている証だ。
『地区ごとに味が違うんです』 『うちの家では、黒蜜ときなこで食べるのも定番なんですよ』 Productionの現場から漏れる、そんな会話が、想像以上に多様な食の感性を育んでいることを物語っている。
農林水産省の伝統食図鑑にも載る『刺身こんにゃく』。かつては、各家庭でこんにゃく芋を室(むろ)に保存し、正月に取り出して振る舞う、重要なハレの食だった。その記憶と技術が、現代ではこのような『茶の間』という形で、生産者同士のネットワークとして生き続けている。
一方で、 small city ならではの課題も見え隠れする。都市部への若年層流出、後継者不足。そんな中で、このイベントは『次の世代』への橋渡しにもなっている。自ら手を動かす若い生産者が、ベテランから技術と信念を受け継ぐ場。SNSで発信する若手生産者もいれば、伝統の味を守る老年層もいる。多様性の中に、この土地のこんにゃく文化が持つしなやかさがある。
『茶の間』という名称に込められた意味も深い。茶道の『茶の間』とは違い、堅苦しい格式はない。しかしそこには、客人をもてなす心、日常の中の非日常、そして地域のつながりを育むという共通点がある。このイベントは、『食』を通じた地域コミュニティ形成の、一つのモデルケースと言えるだろう。
最近のニュースでは、小城市職員の不適切事務処理による処分が報じられた。公的な信頼を揺るがす出来事は、地域に影を落とす。その対極にあるのが、この『さしこん茶の間』だろう。市民が自発的に集まり、誇りとする食文化を語り、未来につなごうとする姿。そこにこそ、地方自治体が目指すべき『住民参加型の地域づくり』の輝かしい一歩がある。
この秋、小城の山間部は棚田の行く秋、彼岸花が美しい季節を迎える。そんな風景と、さしみこんにゃくの白く透き通るような切れ端は、不思議と響き合う。
『さしこん茶の間』は、年内に数回開催されるという。生産者の熱意、地域の味、そして人と人との出会い。小城市の魅力を深く味わいたいなら、まずはこの活動に触れてみるのが一番だろう。 Specialty shop を訪ね、イベントに参加し、酢味噌をつけたさしみこんにゃくを口に運ぶ。その瞬間、小城の風土が、確かにあなたの舌に届くはずだ。
今週末、あなたも『茶の間』を訪ねてみないか。