column

那珂市、子育て支援に“協同の力”を

那珂市、子育て支援に“協同の力”を

夏休みが迫る7月、那珂市役所の4階庁議室で静かに結ばれた協定があった。『子育て支援の推進に係る連携協定』。その締結式に臨む市職員と生活協同組合パルシステム茨城栃木の関係者の表情は、どこか誇らしげだった。この日、令和7年7月10日。蒸し暑さが増す季節だが、子育て家庭にとっては一服の清涼剤となるような NEWS が舞い込んだ瞬間である。

image

そもそも、子育てで一番大変な瞬間は?と問われれば、多くの保護者が「生後間もない時期」を挙げる。授乳、おむつ、夜泣き…負のスパイラルに陥りやすい。そこに二十一世紀の救世主が現れた。離乳食の素材や、肌に優しい石けんが詰まった『おめでとうばこ』である。この小さな箱が、生後4~5か月児の乳児相談時に市から案内カードと共に届くという。パルシステムが、市に代わって世帯に直接届ける仕組みだ。「宅配は週1回。定期的に利用者様の玄関先を訪れる機会を活かし、単なる商品配送を超えた“見守り”の役割も果たしたい」と、関係者は語る。

この協定の真骨頂は、物資の提供だけではない。那珂市が作成した子育て支援に関する相談先や各種サービス情報——例えば、医療機関のリストや行政の手続きガイド——を、パルシステムの宅配ルートに乗せて家庭へ届けるという。情報の非対称性が子育ての孤立を深める現代において、これほど心強い連携があるだろうか。『子育てに役立つ商品』と共に、一筋の情報が郵便受けに入る。その日から、家庭は行政と距離を縮める。

なぜ今、那珂市なのか。背景には、地域コミュニティの希薄化が潜む。核家族化が進み、近所の助けを借りにくい時代。そこへ協同組合という“地域の毛细血管”が登場する。生活協同組合パルシステムは、Exit(脱退)できない組織——加入者が共に支え合う理念の下、長年茨城・栃木で食料品宅配を続けてきた。その信頼ネットワークを、子育て支援に横展開する。いくつもの家庭の玄関先で、配達員が子どもに笑顔を振りまく。それ自体が、小さな社会教育だ。

さらに、2025年は国連が定めた「国際協同組合年」。 cooperative の力が持つ潜在的価値が、世界的に再評価されるタイミング。那珂市の取り組みは、この流れを先取りするローカル版と言える。協定本文には『市民が安心して子どもを育てることができ、すべての子どもが健やかに成長できる環境づくり』という文言が躍る。抽象的に聞こえるが、『おめでとうばこ』という具体的な礼品が、その理念を形にしている。

取材を通じて感じたのは、この仕組みの「静かな革命性」だ。従来、行政の支援は窓口に足を運ぶ必要があった。しかし、宅配という日常のリズムに組み込むことで、受動的な支援から能動的な関与へシフトする。パルシステムの加入世帯は必ずしも那珂市在住とは限らないが、市は『1歳未満の子どもをもつ世帯』という条件で広く門戸を開く。つまり、市域を超えた支援連携が、子育て家庭を孤立させない。

歴史を紐解けば、那珂市は平成の大合併で新市として発足。以降、少子高齢化対策を柱に据えてきた。今回の協定は、そうした長年の試行錯誤の一断面だ。他市では、病院連携や放課後児童クラブ拡充など、ハード面の投資が目立つ。那珂市は、ソフト面——情報と物資の流れ——を最適化することで、人的資源の不足を補おうとしている。その柔軟性は、地方自治体のモデルケースたり得る。

個人として、取材で一番胸に刺さった発言がある。市の担当者が『協定の締結はゴールではなく、スタート』と述べたことだ。確かに、『おめでとうばこ』の中身は、順次見直されるという。パルシステムが提供する商品は、利用者アンケートを基に seasonal(季節的)に調整される可能性がある。例えば、夏場は水分補給に適した食材、冬場は体を温めるメニューを——そんな妄想が広がる。子育ては、 chronos(時間)との戦いだ。季節に合わせた支援が、保護者の負担を微細に削ぐ。

image

この記事を読むあなたも、もし那珂市に子育て世代の知り合いがいるなら、ぜひ『おめでとうばこ』の存在を伝えてほしい。申し込みは、市が配布する案内カードから。または、那珂市役所子育て教育課(電話番号は市公式HPで確認を)へ問い合わせを。夏休み、帰省で那珂市を訪れる機会があれば、市役所の壁に掲げられた締結式の写真を探してみるのも一興だ。あの日、笑顔で署名した二つの代表が、地域の未来をどう描いたか——その熱意は、今も那珂の地に息づいている。

子育ては、一人でするものではない。那珂市のこの一歩が、他の自治体へ ripple(波紋)を広げることを願わずにはいられない。

この地域のビジネスデータを見る

📍 那珂市の開業ガイドへ