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海の未来が、いま呉で育っている

海の未来が、いま呉で育っている

雨が上がった午後、呉市の大和ミュージアム前的な岸壁に立つと、眼前には穏やかな湾と、その奥に連なる造船所のクレーンがシルエットになっている。その風景の奥で、若い研究者がタブレットを見ながら何かを測定している。その光景は、呉という街の二面性——海と技術、過去と未来——を凝縮しているようだった。

海洋文化都市『呉』。この言葉を聞いて、多くの人は呉の軍港としての歴史や、美味しいカキを思い浮かべるだろう。しかし今、この街はそれらの「遗产」を、最先端の「海洋科学」と大胆に融合させ、全く新しい街の物語を書き始めている。その中心にあるのが、広島大学と呉市が共創する「海洋文化都市共創拠点」構想だ。

今年11月に開催された「海洋文化都市くれ海博2024」では、その融合の具体像が詳細に示された。大和ミュージアム、海上保安大学校、そしてJMU呉事業所——海にまつわる3つの著名な施設が一体となり、子供から大人までが「海」の多面性に触れる体験型イベントが展開された。

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特に印象的だったのは、世界初の水素燃料旅客船「ハイドロびんご」の体験乗船だ。講師を務めたツネイシクラフト&ファシリティーズのスタッフは、水素が「宇宙で一番軽い物質」であることを説明しながら、この燃料が「燃やしてもCO₂を出さない」点を強調した。子供たちは、船内で展示される水素タンクを興味深そうにのぞき込み、疑問を投げかけていた。これは単なる技術紹介ではない。未来の海の移動手段、そして脱炭素社会への具体的な一歩を、呉の海で「体感」する瞬間だった。

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海博のもう一つの顔は、 Maritime(海事)の伝統と、大学・企業による最新研究の共存だった。海上保安大学校の「海神祭(わたつみさい)」との共催により、花火が打ち上げられる夜には、救難実演で見せた学生たちの逞しい姿と、水中ドローンのブースで子供がコントローラーを握る姿が、同じ時間、同じ場所に共存していた。呉が育んできた「海への視点」——守る側、使う側、研究する側——が、一つの祭りに集約されていたのである。

この活動の学術的・行政的な基盤が、2024年1月に設立された「海洋文化都市くれ推進協議会」だ。呉市、広島大学をはじめ、行政、教育機関、企業など58団体が参画。さらに、3月には国の科学技術振興機構(JST)の「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」に本格型拠点として採択され、今後10年間で総額約20億円の支援を受けることが決まった。これは、構想が単なる地元の夢物語ではなく、国として invest(投資)するに足る「海洋イノベーションのモデルケース」と評価された証左だ。

プロジェクトリーダーの広島大学・作野裕司教授が語る*

「人と海のつながりを再構築する。若い世代が未来を描ける海洋都市モデルを」

この再構築の核となる技術が「リモートセンシング(遠隔計測)」だ。人工衛星から海を「見る」。雨の日も、夜も、水温や潮の流れ、プランクトンの動きをリアルタイムで把握する。この技術が、呉の基幹産業であるカキ養殖に直結する。異変を早期に発知し、養殖の最適な時期を科学的に判断できるようになれば、生産者の収入安定と、marine environmental conservation(海洋環境保全)の両立が可能になる。

呉の歴史をひも解くと、この街が海と深く、複雑に結びついてきたことがわかる。明治以来の軍港として「海を支配する」技術、そしてemarket(市場)としての漁業・水産業として「海から恵みを受ける」営み。一見対極のこの二つが、呉のアイデンティティの両輪だった。海洋文化都市構想は、その二つを「管理」から「共生・共創」へと昇華させる試みと言える。

新しい市長に就任した寺本有伸氏(注:記事執筆時点での情報)が、この構想をどう引っ張っていくか。教育長の多田博氏との連携も含め、行政としての意思決定とスピードが問われる。また、地域経済への波及効果も期待される。新たな海洋技術のベンチャーが生まれ、地元の造船技術と融合した新産業が育つ可能性。それに伴う雇用。そして何より、子供たちが「海に関わる仕事」に夢を持つことが、持続可能な海洋都市の原点になる。

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呉を訪れる機会があれば、ぜひ大和ミュージアム周辺を散策してみてほしい。旧軍港の赤レンガ倉庫のすぐそばで、水素燃料船の説明に耳を傾ける学生の姿がある。その向こうでは、海上保安学校の練習船が訓練のために出港する。海の everywhere(いたる所)に、過去と未来の交差点がある。

海洋文化都市。それは、海を背景にした観光地づくりでも、ハイテク企業の誘致でもない。呉が海とともにあることを「文化」と定義し、その上に peoples(人々)が学び、働き、遊び、未来を紡ぐ「场」を創出する壮大な実験だ。海博のようなイベントは、その実験の一部を一般公開する「オープンラボ」なのだ。

来年も再来年も、この街では、海の上で、海の近くで、何かが起こっている。呉の魅力は、その「今、進行中である」という熱量だ。あなたの次の週末、呉の海にその熱気を感じに来てはいかがだろうか。

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