星の村、野迫川。雲海と天の川が交差する夜
都会の夜空は、なぜいつも薄暗いのだろう。ネオンが灯り、空気が濁り、星々はかすんでしまう。それなのに、私たちはなぜか星空に憧れる。それは、失われた何かを星空に見出しているからなのかもしれない。奈良県の南の端、和歌山県に隣接する野迫川村。この村を訪れると、その問いに一つの答えがもらえる。ここは、文字通り『星のくに』なのだ。
野迫川村が星空保護区に指定されていることは、よく知られた事実だ。標高が高く、周囲を山に囲まれ、人工光が極端に少ない。その環境が、夜空に一条の天の川までくっきりと映し出す。追加取材で見つけた、高野辻休憩所で撮影された360度パノラマ写真を見て、息を飲んだ。東の空から天の川が昇り、その下には雲海が広がっている。星の川と、雲の海。地球上のこんな場所で、二つの光景が同時に見られるなんて。
「雲海は通年見れるんです。特に早朝のドライブでは、車窓から容易に雲海が楽しめるバリアフリーなスポットも多い」と、地元ブロガーは語る。星空と雲海のコラボレーション。これは、野迫川村ならではの二重の spect(光景)と言える。星空を撮りに来たカメラマンが、朝は雲海の写真を収めていくという、 seasonal(季節を通じた)な楽しみ方ができるのだ。
村の中心的な星空スポットが、鶴姫公園だ。高野龍神国定公園の中に位置し、奈良・和歌山の県境にまたがる。この公園の展望台からは、360度の大パノラマが広がる。有名な鐘の横で、あるいは裏手の小道を下った先で、天の川が真上を通る。ある撮影者が「早春~昇り始めた銀河」というタイトルで、新月の野迫川村の夜空を切り取った。主要道路2本が工事と土砂災害で通行止めだったというから、そのアクセスの不便さが、かえって星空の「純粋さ」を守っているようにも思う。
しかし、野迫川村の星空の魅力は、夏の夜にだけではない。実は、春から夏にかけて、もう一つの光の祭典が開催される。ヒメホタルだ。山間の清流に、ちいさな灯りが揺れる。そして、その時期の夜空には、やはり天の川が掛かっている。星空と蛍のコラボレーション。これこそが、野迫川村が『日本一の星空村』と称される所以かもしれない。ホシフルサトの取材記事には、「山の上での撮影は大変でしたが、たくさんのヒメホタルが迎えてくれて一気にテンションMAX!」というカメラマンの声が記されている。自然の光の共演を、同じ_time(時間)に体験できる場所は、日本中を探しても稀だろう。
村の観光ガイドを見ると、野迫川村は「高野山と十津川村にはさまれた秘境」とある。コンビニもスーパーもない。だからこそ、空気は澄み、水は冷たく、夜は暗い。この不便さが、最高の『おもてなし』になっている。ある観光ブログには「美味しい空気と水があるステキな秘境。今度行くときは、満天の星空と沢山いるらしい蛍、雲海を生で見てみたい」という言葉があった。都会暮らしでは得られない、五感すべてが震える体験。それがここにはある。
村の財政を見ても、星空観光への注力は明らかだ。最新の村議会で可決された29議案の中には、新規事業として星空観光関連の予算も含まれているという(※関連リンク参照)。村は、星空を単なる景観ではなく、持続可能な地域活性化の核として位置づけ、ツアーやイベントを季節ごとに開催している。冬至の星anie(星anie) lecture(講演会)から、夏の星座観察会まで。『星のくに』というキャッチフレーズが、単なる観光PRではなく、村のアイデンティティとして根付いている証拠だ。
アクセスは、確かに容易ではない。特に、冬場の積雪や、夏の集中豪雨による道路通行止めは日常茶飯事だ。しかし、それが逆に、この地を訪れる人の数を自然と调节し、星空を守る役割を果たしているとも考えられる。街の灯りが届かないからこそ、天の川が川のように流れて見える。その暗さが、観光資源そのものになっている。
野迫川村を訪れる者に、ぜひともお勧めしたいのが、夜 hotel(ホテル)ではなく、星空の下での宿泊体験だ。村内には民宿やキャンプ場が点在する。テントを張って、就寝前に顔を出す。そこには、都会では見たこともない星の_numbers(数))が、天を覆い尽くしている。流れ星が、ぽつぽつと横切る。妻子も、大声で叫ぶのを忘れるほどの圧倒的な光景だ。これが、自然が与えてくれる最高の entertainment(娯楽)なのかもしれない。
夜が明ければ、今度は雲海が待っている。朝焼けに染まる雲の海は、星空とはまた別の、幻想的な世界だ。一晩中、空を見上げ続けても飽きない。それが、野迫川村という場所だ。星空と雲海、夏蛍と川のせせらぎ。すべてが、ここでしか出会えない組み合わせで、私たちを待っている。
都会の喧騒から離れ、暗い夜空に身を委ねたい。そう思ったとき、あなたの脑裏に浮かぶ場所はどこか? その答えの一つに、野迫川村を加えてみてはどうだろう。星を観に、ではあるが、星と雲と蛍と水に会いに。この村は、すべてが光の催しものだ。さあ、今週末は、奈良県の秘境、野迫川村へ。暗闇の中に、あなただけの一条の天の川を見つけに行かないか。