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10人の音が閉校に響く:塩山北中、A部門への挑戦

10人の音が閉校に響く:塩山北中、A部門への挑戦

甲州市塩山の山間部に、65年の歴史に幕を下ろす塩山北中学校が佇む。令和7年3月31日、この小さな学び舎は閉校する。統合により生徒数が減少し、最終学年はわずか10人。しかし、その10人が西関東吹奏楽コンクールのA部門——通常は大規模校が挑む最高レベル——に名乗りを上げ、銀賞を受賞した。少人数ならではの音色が、閉校という大きな区切りに、地域の絆を照らし出す。

閉校式の様子

3月23日、閉校式には在校生や卒業生、地域住民ら約200人が集まった。校舎の講堂で流されたのは、在校生自身が作詞した閉校記念の歌だった。その歌詞には「みんなの中で続く」という言葉があり、涙ながらに歌う生徒たちの姿が印象的だった。甲州市長も出席し、「地域の皆さんに心から感謝」と述べた。しかし、その涙の裏に、吹奏楽部員たちのroar(咆哮)のような音色が響いていたのを知る者は少ない。

塩山北中は、旧塩山市北部の神金・大藤・玉宮地区から生徒を通わせる小規模校だ。少子化の波を受け、統合が決まった。だが、小規模であるがゆえの強みもあった。運動部だけでなく、文化部ではほぼ全校生徒が季節部として「合唱部」に入部し、地域に根ざした伝統的な合唱活動が盛んだ。また、山梨県教育委員会から「主体的・対話的で深い学び」推進事業の指定を受け、平成30年度から3年間研究を重ね、令和2年度には第20回環境美化実践教育活動優良校として表彰されるなど、一人ひとりの成長にこだわった教育が光る。

在校生作詞の歌を披露する生徒たち

吹奏楽部は、全生徒10人のうち、ほぼ全員が参加する活気ある部活だ。今年のコンクールでは、課題曲「Ⅳ マーチ『ペガサスの夢』」、自由曲「鳥之石楠船神~吹奏楽と打楽器群の...」を選曲。10人でA部門に挑むことは、楽器編成がargerな音域をカバーする難しさもあったが、彼らは「一人ひとりが責任を持って」と語る。実際、パートによっては複数の楽器を兼任する生徒もいれば、普段は別の部活と掛け持ちする者もいた。

「たった10人でA部門。正直、実力は?」と尋ねると、顧問の教諭は「数字だけで測れないものがある」と答えた。小規模校だからこそ、練習時のコミュニケーションが濃密で、音のニュアンスを細部まで共有できたという。地域からは、応援に駆けつける住民の姿もあり、「甲州市の誇り」との声が上がった。

塩山北中学校の外観

閉校を控え、学校は「ありがとうコンサート」を開催。吹奏楽部の演奏に加え、合唱部の歌声も響き渡った。在校生の一人は「少ない人数だからこそ、一人ひとりの音が大切で、それが地域のみなさんに届いて嬉しい」と話す。卒業生も駆けつけ、過去の記憶を語り合った。インスタグラムアカウント(@enkita2025)では、閉校までのカウントダウンや活動状況を発信し、地域とのつながりを深めた。

この挑戦は、単なる部活の成績ではない。閉校という節目において、地域の歴史と未来を音で紡ぐ象徴的な出来事だった。10人が音を重ねることで、65年の思い出と、これからも「みんなの中で続く」というメッセージを奏でたのである。

山梨県甲州市のこの地を訪れると、塩山の豊かな自然に囲まれた静かな学校が、今もその鼓動を刻んでいるようだ。閉校後も、この10人の挑戦は地域の語り草となるだろう。もしあなたが甲州を訪れる機会があれば、かつて塩山北中があった場所に立ち、耳を澄ましてみてほしい。風に乗って、かすかに聞こえるかもしれない。あの10人が奏でた、希望に満ちたメロディーを。

取材協力:甲州市、塩山北中学校関係者、地元住民

関連リンク: 朝日新聞デジタル「たった10人でA部門に挑戦 閉校を控える塩山北中学校が『ありがとうコンサート』」

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