富加町の田舎から届く、三色の甘い革命
岐阜県加茂郡、関市と美濃加茂市に挟まれた小さな町──富加町。約5800人の人口を抱えるこの土地は、黒米やイチゴの生産で知られながら、「これといった自慢の特産品がない」という closed なジレンマを長く抱えていた。しかし今、そのジレンマを打破する甘い香りが、町のいたる所で漂い始めている。カボチャ、イチゴ、黒米。三つの地元産食材が、スイーツという「町の顔」として生まれ変わろうとしているのだ。
プロジェクトの NEC は、2023年秋。町役場産業環境課が、ふるさと納税の返礼品開発を目的に掲げた。人口微増が続くものの、町外にアピールできる明確な「魅力の核」がなかった。「町民が胸を張って言えるもの。町外の方に富加町の魅力が伝わるもの」。その言葉を胸に、町は副業人材マッチングプラットフォーム「みらいワークス」を通じ、全国からレシピ開発者を公募したのである。
応募者約30人の中から選ばれたのは、大阪府堺市在住の管理栄養士・料理研究家、山口香代子さんだった。山口さんは約5ヶ月間をかけ、富加町の風土と食材の特性を徹底的に読み解いた。そして生まれたのが、『カボチャのスプレッド』『イチゴピューレのゼリー』『黒米ポン菓子のキャラメルナッツ』『イチゴのパンナコッタ』という4品のスイーツだ。どれもが、地元産の食材が持つ優しい甘さと、現代的な食感を両立させた、計算しつくされた作品だった。
(金城学院大学の学生たちと試食会の様子。若者・女性の視点が商品開発の鍵となった)
このプロジェクトの最大の特徴、そして「意外性」が、大学生の参加にある。2024年1月26日、富加町羽生の道の駅「半布里の郷とみか」で開催された第1回試食会には、金城学院大学食環境栄養学科の3年生7名が招かれた。彼女たちの任務は、ターゲット層である「若者と女性」の視点から、開発中のスイーツを評価し、率直な意見をぶつけることだった。
試食会に参加した学生の一人は、次のように振り返る。「食のプロフェッショナルである山口さんが作られたスイーツは、どれも素材味が活きていて驚きました。一方で、『もう少し食感にアクセントが欲しい』『パッケージはもっとポップに』など、私たち世代ならではの感想を伝えることができました。多くの方々と開発途中の商品に対する意見を交換するという、貴重な経験ができました」
(地元の農産物が、どんなスイーツに生まれ変わるのか?試作品が並ぶ)
地元事業者として造形を手掛けるのは、町内で健康食品を製造販売する「FESTA(フェスタ)」(大山)。彼らが、山口さんのレシピを基に試作品を製造した。町長自らがイチゴを摘む姿が報じられるなど、行政、生產者、開発者、学生、製造事業者──多様なプレイヤーが「富加町の特産品」という一点に集結する、極めて横断的なプロジェクトがここに完成した。
この背景には、単なる特産品開発を超えた、富加町の未来を担保する戦略が見える。町役場・佐合星彦さんはnoteのインタビューで次のように語る。「人口約5800人の小さな町では、これまで町民が胸を張って言えるような特産品がありませんでした。ふるさと納税の返礼品としても、他町と同じようなものでは差別化できません。地方こそ、『副業人材』のような外の視点と、地元の愛着を組み合わせることで、唯一無二の価値を生み出せる──。富加町はその実験場なのです」
(富加町商工会公式HPより。黒米は酒にもなっている。スイーツ以外の可能性も広がる)
実際、富加町の黒米は、すでに「黒米酒」として商品化され、薄いピンク色と辛口が特長の地元自慢の品だ。その伝統的な食材を、現代のスイーツへと昇華させる。カボチャはスプレッドとして食パンに、イチゴはゼリーやパンナコッタとしてそのままの甘さを、黒米はポン菓子にして香ばしいキャラメルナッツに。どのスイーツにも、富加町の土と太陽と水が育んだ滋味が凝縮されている。
試食会で целью とされた年内の商品化は、着実に進んでいる。道の駅「半布里の郷とみか」での販売、ふるさと納税返礼品への追加が的具体的目标だ。そして、このスイーツがもたらす効果は、単なる経済効果だけではない。町内の農家にとっては、新たな販路と収入源の創出。町民にとっては、誇りと愛着の対象の獲得。そして訪れる人にとっては、富加町という土地の「味わい」そのものをお土産として持ち帰れる機会の提供。
(朝日新聞記事イメージ画像。地元産の輝く食材たち)
小説家・池澤夏樹がかつて「土地の味は、土地の記憶だ」と書いた。富加町のこのスイーツプロジェクトは、まさにその「記憶」を、食べ物という最も直接的な形で結晶化させようとしている。大学生のまっすぐな視線、栄養士の確かな技術、農家の丹念な栽培、町職員の地域愛。それらすべてが混ざり合い、焼き上がる。
「田舎の小さな町が、美味しい革命を起こす」。その瞬間を、私たちは今、立ち会っている。目指すは「町の顔」。その味は、もうすぐ、私たちの舌に届く。
今週末、岐阜県富加町を訪ねるなら、道の駅「半布里の郷とみか」を外せない。完成した「富加町の味」が、そこで待っている。