壱岐島、猫3,000頭を救う! TNRプロジェクトの軌跡
離島で3,000頭もの猫を救う——その数字に、まず圧倒される。長崎県壱岐市。玄界灘に浮かぶこの島で、今、静かだが確かな動物保護の灯火が燃え上がっている。猫たちの鸣き声が渔港の朝日に溶け込む。だが、かつては過酷な環境で生きるしかなかった野良猫の群れ。命の危机が迫っていた。
2022年7月、壱岐市は公益財団法人どうぶつ基金の「さくらねこ無料不妊手術事業」に参加した。これが「イキイキさくらねこTNR」プロジェクトの始まりだ。TNRとは、 Trap(捕獲)、 Neuter(不妊手术)、 Return(元の場所に帰す)の略。野良猫の命を救い、繁殖を防ぐための世界標準の方法だ。壱岐島では、無料不妊手術チケットを使い、島中で野良猫や多頭飼育崩壊の猫たちに手を差し伸べた。
プロジェクトは、早期・夜間に行われた。猫が警戒しにくい時間帯を選び、地道な捕獲活動が続いた。「日中は猫が臆病で捕まえにくい。早朝や夜間、ライトを頼りに路地裏や山裾を歩いた」と、どうぶつ基金の報告にはある。そして、驚くべきことに、中学生や高校生のボランティアがこの活動に参加した。世代を超えた力が、壱岐の現場を支えたのである。島のコミュニティが一体となった証だ。
2024年12月、篠原一生壱岐市長がプロジェクト現場を視察に訪れた。どうぶつ基金の佐上理事長と「命を救うために踏み込んだ話し合い」を行ったという。この視察は、行政と民間団体の連携を象徴する瞬間だった。市長の直接関与は、猫保護を「地域課題」として位置づけ、島民の意識を変える起爆剤となった。
成果は数字に表れた。2024年12月だけで120匹の「さくらねこ」(不妊手術を施された猫の愛称)が誕生。プロジェクトは2025年3月19日に無事終了し、目標としていた3,000頭規模の救出を達成した。どうぶつ基金によれば、活動資金はすべて民間からの寄付でまかなわれた。手术費だけでなく、里親探しの支援、写真コンテストの開催、啓発活動まで——「壱岐島わんにゃんお守り隊299」などの地元団体が連携し、猫たちの「その後」を見据えた総合的な対策が敷かれたのである。
壱岐島の猫保護が注目される理由は、その「地域性」にある。漁業や農業が基幹産業のこの島で、猫たちは古くからコンパニオン的存在だった。だが、無計画な繁殖や捨て猫により、過密状態になりかねない。長崎県は全国的に殺処分率がワースト1で、壱岐市も犬の殺処分件数県内ワースト1という苦い過去がある。このプロジェクトは、その反省を生かし、「殺処分ゼロの島」を目指す第一歩となった。島の自然環境——海風にさらされた石垣や藪——が猫たちの住処であるがゆえに、TNRの必要性は切実だった。
「保護前と後の表情見て」という写真展も開かれた。痩せ細り瀕死だった猫が、回復して「笑顔」のような表情へ変わる姿。その劇的な変化は、島民に保護の意義を体で伝えた。どうぶつ基金のInstagramには、早朝の捕獲に奔走するボランティアの姿が投稿され、昼夜を問わぬ活動が垣間見える。
しかし、プロジェクト終了はゴールではない。依然として、飼い主のいない猫や多頭飼育崩壊のリスクは消えていない。「壱岐島わんにゃんお守り隊299」は、発見者が責任を持って保護や飼育、里親探しを行うことを基本に、相談に乗っている。啓発活動は続き、署名活動も展開中だ。
結びとして、読者に問いかけたい。壱岐島を訪れたら、港町を散策し、猫たちの様子を見守ってみてほしい。 fret not, 猫は今、不妊手術の印记(耳のカット)を示しながらも、島で穏やかに暮らしている。里親になることも、寄付することも、SNSで情報を拡散することも、すべてが支援になる。
このプロジェクトは、離島だからこそ可能だった「小さな革命」だ。コミュニティが一丸となれば、動物との共生は現実になる。壱岐の海風が、猫たちの未来を優しく包み込む——その光景を、私たちは目撃している。