高島のソウルフード「とんちゃん焼き」:廃鶏から生まれた冬の味
寒い冬の夜、温かい食べ物が恋しくなる。街角から漂う香ばしい香り、具材がジューッと音を立てる鉄板の音——全国的に「ホルモン焼き」といえば牛や豚の内臓を想像する人が多いだろう。しかし、滋賀県高島市では、それが意外な食材で作られる『とんちゃん焼き』として親しまれている。鶏肉、しかも廃鶏と呼ばれる卵を産めなくなった鶏の肉を使った、甘辛い味噌タレの料理だ。全国的に知られていないこの名物は、高島市の食文化の核を成し、今も冬場に限らず一年中、地元の人々の胃袋を掴み続けている。
【廃鶏が生んだ地域の知恵】
高島市発祥のとんちゃん焼きの歴史を紐解くと、採卵業が盛んだったこの地域の背景が見えてくる。かつて卵を産めなくなった鶏は「廃鶏」と呼ばれ、捨てられる存在だった。その廃鶏を「ありがたくいただく」文化から、この料理が生まれた。発祥の店とされる『鳥中』の3代目、提中卓郎さんは「祖父が鶏肉卸として商いを始めた昭和36年、『鶏を無駄にしない』という想いから、味付けかしわとして作り始めた」と語る。 提中さんの話によれば、古くから高島地域では卵の採卵業が隆盛で、廃鶏の肉は硬くて通常の食材としては扱いづらかった。そこで、自家製の甘辛い味噌ダレでしっかり味付けし、焼くことで柔らかく仕上げた。これが『味付けかしわ』、通称『とんちゃん』の始まりだ。
【名前の謎:なぜ「とんちゃん」?】 『とんちゃん』という呼び名の由来は今も不明とされるが、いくつかの説が語られている。高島市には在日韓国人コミュニティが多く、韓国料理の牛ホルモン焼き『トンちゃん』と味が似ていたことから、お客さんが「とんちゃん」と呼び始めたという説が有力だ。また、高島市では鶏肉自体を「とんちゃん」と呼ぶ方言もあり、それが転じた可能性もある。『鳥中』では公式に「とんちゃん」という商品名を使っていないが、地元での愛称として定着。今では「高島とんちゃん」としてご当地グルメの代表格となった。 この混沌とした名前の由来こそが、地域の混ざり合う歴史を物語っているようだ。
【地元で愛される味の现在】
とんちゃん焼きは、高島市の各所で食べられる。安曇川町の『とんちゃん焼 はしもと』は、鶏肉卸直営店ならではの絶品さで知られる。口コミでは「トンちゃん丼は最高で、親鳥塩が特におすすめ」との声も。店内は落ち着いた雰囲気で、まったりと食事を楽しめる。また、『鳥中』は本店のほか、長浜、安曇川、今津にも店舗を構え、味の普及に努めている。2022年にはセブン-イレブン・ジャパンが「高島とんちゃん焼き丼」を近畿2府4県で限定販売し、全国的な認知度が一気に向上。PR TIMESでも定食屋での提供が報道されるなど、地域の食文化としての価値が再評価されている。
【冬に恋しくなる、こってりあっさりの味】 とんちゃん焼きの魅力は、甘辛い味噌ダレにニンニクの香りが効いた、こってりyetあっさりとした味わいにある。固くなりがちな廃鶏の肉を、タレでしっかり味付けし焼き上げることで、噛むほどに旨味が広がる。白米との相性は抜群で、一度食べれば病みつきになる後引く美味しさだ。高島市では「家庭の味」として長く親しまれ、鍋料理のように冬場に皆で囲んで食べる習慣もある。追加取材で訪れた『かばた館』では、メタセコイア並木を車で走りながらとんちゃんを求めるドライバーの姿も見られたという。食レポでは「甘辛い味噌タレが最高」との一言に尽きる。
【高島市の未来と食文化】 高島市は新年度当初予算案で「官民共創で新しい高島を」を掲げ、食文化もその一部として位置づけられている。市長選でも地域の魅力が議論される中、とんちゃん焼きは単なるB級グルメではなく、地域の歴史とアイデンティティを体現する存在だ。地元の人が「高島とんちゃん」と呼ぶとき、そこには廃鶏を大切に食べる祖先の知恵と、在日コミュニティとの交流の記憶が込められている。今年の冬は、是非高島市を訪れ、温かいとんちゃん焼きを囲みながら、この町の深い物語を味わってほしい。
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