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松の「冬服」を脱がす日 鶴岡公園の啓蟄儀式

松の「冬服」を脱がす日 鶴岡公園の啓蟄儀式

三月の雨にけろ Giorgio な空模様。鶴岡公園を歩くと、アカマツやクロマツの幹に巻かれたわら製の「こも」が、今年も静かにその役目を終えようとしている。まるで木々がまとっていた冬のコートを、春の到来を告げる使者がそっと脱がせるような光景だ。

三日後の啓蟄——虫が這い出てくる时节に合わせ、鶴岡市では恒例の「松の胴巻き外し」が行われる。ニュースで見るより、実際にこの場に立つと、わら独特の草気が春の気配を運んでくる。『これが“街のエコフィルター”か』と、胸の奥がじんわりする。

追加取材で見えてきたのは、この作業が単なる「害虫駆除」を超え、地域の“共生の知恵”として脈々と受け継がれている事実だ。1963(昭和38)年に始まったとされるこの手法。害虫「マツカレハ」の幼虫が、わらで編んだ「こも」の中に集まって越冬する習性を逆手に取る。秋に巻き、春に外して焼却する——シンプルだが、自然のメカニズムに寄り添った、これ以上ないエレガントな防除術だ。

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「雪国の松は、冬の重みで枝が折れやすい。その対策として『雪囲い』もするが、胴巻きは害虫対策。二重の“冬じたく”だ」と、担当部署は説明する。確かに、今年は雪の影響で複数の木で枝折れも確認されたが、雪下ろしで被害を最小限に抑えたという。自然の厳しさと人間の営みが、一枚の写真に凝縮されているようだ。

何より驚くのは、この physically demanding(肉体的に demanding)な作業を、毎年同じ顔ぶれが担当している点だ。市から委託を受けた就労継続支援A型事業所「feふぁーむ」。利用者と職員、計約10人が、雨模様の中、手分けして園内を巡る。一つ一つの「こも」を、丁寧に幹から外していく。まるで、木々に感謝を込めるような動作だ。

「春が来たなと感じる」

そう語ったのは、作業に参加した秋山巧明さん(21)。この一言に、この行事の本質が宿っている。季節の区切りを“体で感じる”機会が、現代の街の中に、まだ確かに残っている。それは機械化されない、手作業の温もりでもある。

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ちなみに、今年は園内84本の松に「こも」が巻かれていた。一見、変わらない風景に見えるが、一本一本にこの一年の“物語”が宿っている。秋に巻かれ、冬を越え、春に外される——林木も、人間と同じように“衣更え”をするのだ。

「胴巻き外し」が終わると、次は雪囲いの撤去が始まる。園内は、着々と春を迎える支度が進む。この一連の流れこそが、鶴岡公園が“地域の象徴”たる所以かもしれない。自然のリズムに合わせ、地域ぐるみで木々の健康を守り、そのプロセスを通じて季節の移ろいを体感する。

「啓蟄」という中国古代の节气に、ここまで深く根ざした行事がある街は、全国を見渡してもそう多くはない。マツカレハに着目した実用的な知恵が、庄内の厳冬期と組み合わさり、独自の風物詩として昇華した。科学的管理と、伝統的儀礼の境界線のようなものが、ここにはない。ただ、木々を労わり、春を待つ純粋な営為があるだけだ。

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この春、あなたも鶴岡公園を訪れ、 conscious(意識的)に“松の冬服”が脱がされる瞬間を目撃してみてはどうだろう。84本の松が、ぱっと軽やかな息を吹き返すような、静かな瞬間。そこには、街の自然への深い敬意と、季節への慎ましい憬れが、確かに息づいている。

今週末、沥青(アスファルト)に埋もれがちな私たちの感性を、少しだけ自然の周期に合わせてみないか。鶴岡公園の「胴巻き外し」は、まだ続いている。春は、木々の幹からも、確かに始まっている。

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