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能美電の「引っ越し」が呼び起こした鉄道ファンの熱狂

能美電の「引っ越し」が呼び起こした鉄道ファンの熱狂

あの日、能美市の空は、鉄道ファンたちのシャッター音で鳴り響いていた。

2024年3月4日、能美根上駅東口広場で行われた「能美電」車両の設置作業。クレーンで持ち上げられ、トレーラーからゆっくりと降ろされるその瞬間を、多くの鉄道ファンが息をのんで見守った。無人店舗として3月29日に開業する予定のこの車両は、約8キロ離れた「のみでん広場」から夜を徹して運ばれてきたものだ。

「これはもう、イベントですよ」

そう興奮気味に語るのは、金沢市の車販売店に勤める54歳の男性。彼はこの日のために4日間も能美市に通い詰め、車両の移動の一部始終を撮影し続けたという。「無人店舗ができたら、また来ますよ。ここでしか味わえない空気があるから」

能美電車両設置の様子

100年の歴史を刻んだ「能美電」

能美電(旧北陸鉄道能美線)は、1922年に辰口温泉や湯谷鉱泉への観光客輸送、九谷焼の輸送を目的に開業した路線だ。当初は762mmの軌間を予定していたが、1067mmの電気鉄道に計画を変更。1923年9月に能美電気鉄道株式会社が設立され、工事が始まった。

全長16.7キロの路線は、鶴来町(現・白山市)の鶴来駅と能美郡根上町(現・能美市)の新寺井駅を結び、地域住民の重要な交通手段として55年間にわたり地域経済を支えた。しかし、1980年9月14日に惜しまれつつ廃線となった。

「能美電は地域住民にとって生活の一部でした。学校に通う子どもたち、仕事に行くお父さん、買い物に出かけるお母さんたちの足として、長年親しまれてきたんです」

能美市文化財課の担当者はこう語る。廃線から45年が経った今も、その記憶は地域に深く根付いている。

能美電車両

「のみでん広場」から新たな旅立ち

現在、能美市内にはかつて走っていた車両が2両保存されている。1両は2006年に「のみでん広場」に設置され、図書館や児童館が集まる場所として多くの市民に親しまれてきた。もう1両は2007年から能美根上駅前に展示されていた。

今回、駅前にあった車両を無人店舗として改修し、能美根上駅東口広場に移設する計画が進められている。「駅周辺のにぎわい創出につなげたい」という市の思惑通り、車両の移動には多くの鉄道ファンが詰めかけ、地域外からも注目を集めた。

「能美電は私たちの宝です。駅前に移設されることで、より多くの人にその歴史を知ってもらえるチャンスが広がります」

能美市の担当者は期待を込めて語る。改修後の車両は飲食物や土産が購入できる無人店舗、待合室として活用される予定だ。

鉄道ファンが撮影に熱中する理由

なぜ鉄道ファンたちは、この車両の移動にこれほど熱狂するのだろうか?

「能美電は、日本の鉄道史においても非常に貴重な存在なんです」

鉄道史研究家の山田浩之氏はこう解説する。「能美電は、地域のニーズに応じて柔軟に運行されていた路線の代表例。蒸気機関車から電気鉄道への転換、観光輸送と貨物輸送の両立など、日本の私鉄の歴史を語る上で欠かせない路線なんです」

また、能美電の車両はデザイン的にも魅力的だ。コンパクトながら機能的な造りは、現代の鉄道ファンにも新鮮に映るという。「この車両の移動は、まさに歴史の一部を目撃する貴重な機会。だからこそ、多くのファンがカメラを手に集まったんです」

鉄道ファンの様子

地域経済への波及効果

能美電車両の移設は、地域経済への波及効果も期待されている。

「コマニー能美工場」の新工場建設と合わせ、能美市は観光と産業の両面から活性化を目指している。コマニーは「共創が生まれる間(ま)」をテーマに新工場をオープンさせ、地域との連携を強化する方針だ。

「鉄道ファンの来訪は、地域経済にとってプラスの影響を与えます。飲食店や土産物店への来客増加、宿泊施設の利用促進など、さまざまな形で地域活性化につながるでしょう」

地元商店街の関係者はこう語る。能美電車両を核とした観光振興は、コマニー新工場の誘致と相まって、能美市の新たな魅力として定着しつつある。

能美電の未来

能美電車両の無人店舗は、3月29日に開業予定だ。駅前広場に設置されることで、能美根上駅を利用する観光客やビジネス客の新たな交流の場となることが期待されている。

「能美電は、能美市の歴史そのもの。この車両を通じて、多くの人に能美の歴史や文化を感じてもらいたい」

能美市の担当者は力強く語る。能美電の保存と活用は、単なる鉄道ファンの趣味の領域を超え、地域の歴史継承と活性化の大きな一歩となっている。

完成イメージ

今週末、能美へ

能美電車両の無人店舗が開業する3月29日、能美市は多くの来訪者でにぎわうことが予想される。鉄道ファンはもちろん、地域の歴史に触れたい観光客、地元住民も訪れることだろう。

能美市は「能美電100年」を記念し、今年さまざまなイベントを計画している。能美電の歴史を振り返る展示会、鉄道関連のワークショップ、地元グルメフェアなど、多彩な催しが予定されている。

「能美電は、能美市の宝です。この宝を多くの人に知ってもらい、能美市の魅力を再発見してもらえたら」

能美市の担当者はこう語る。能美電車両の移設は、地域の歴史を未来につなぐ大きな一歩。鉄道ファンの熱狂は、その第一歩を印象的なものにした。

今週末、能美市を訪れてみてはいかがだろうか。能美電の歴史に触れ、地域の新たな魅力を発見できるはずだ。

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