千年の絆を酌む酒「郷の心」
北海道の大地に立つと、なぜか懐かしいような気持ちになる。それは、この土地が私たち日本人の原風景を色濃く残しているからだろう。新十津川町もまた、そんな懐かしさを感じさせる町のひとつだ。
1889年、奈良県十津川村を襲った大水害。多くの村人たちは故郷を離れ、北海道の地に移住することを余儀なくされた。その移住先こそが、現在の新十津川町である。100年以上の時を経て、両町村は今もなお深い絆で結ばれている。
その絆を象徴するかのように、今年4年ぶりに「郷の心」という純米酒が誕生した。北海道新十津川町産の酒米「吟風」と、奈良県十津川村産の酒米「吟のさと」をブレンドしたこのお酒は、まさに両地域の思いが込められた一杯だ。
私は金滴酒造の蔵を訪ね、杜氏の山田さんにお話を伺った。「このお酒を造るにあたって、最も気を遣ったのはバランスです」と山田さんは語る。「吟風はしっかりとした味わいが特徴ですが、吟のさとは繊細で華やかな香りが魅力。この二つをうまく調和させるのが難しかったですね」
実際に「郷の心」を口に含むと、その絶妙なバランスに驚かされる。吟風の力強さと吟のさとの優雅さが見事に調和し、口の中でゆっくりと広がっていく。後味はすっきりとしていて、いくらでも飲めてしまいそうだ。
このお酒が完成するまでの道のりは決して平坦ではなかった。金滴酒造はかつて経営危機に陥り、一時は存続の危機に瀕したこともある。しかし、地元の人々の支援と杜氏たちの情熱によって、奇跡のV字回復を遂げたのだ。
「このお酒には、私たちの苦労と感謝の気持ちが詰まっています」と山田さんは語る。「先人たちが築いてきた絆を、これからも大切に守っていきたいですね」
新十津川町は、北海道のほぼ中央に位置する。周囲を雄大な山々に囲まれ、石狩川が町を貫く。自然豊かなこの地で育まれる酒米「吟風」は、冷涼な気候と清らかな水によって育まれた。
一方、十津川村は奈良県の最南端に位置し、日本有数の豪雪地帯として知られる。大峰山脈の麓に広がるこの地で育まれる酒米「吟のさと」は、厳しい自然環境の中で育まれた。
この二つの酒米が出会い、新たな命を吹き込まれたのが「郷の心」なのだ。このお酒を飲むと、まるで北海道の大地と奈良の山々が目の前に広がるような気がする。
「郷の心」は、新十津川町の金滴酒造でのみ販売されている。限定200本という希少なお酒なので、手に入れるのは至難の業かもしれない。しかし、その価値は十分にある。
このお酒を飲むことで、私たちは先人たちの苦労と感謝の気持ちを受け継ぐことができる。そして、これからも続く両町村の絆を感じることができるのだ。
新十津川町を訪れる際は、ぜひ金滴酒造にも足を運んでほしい。蔵見学や試飲もできるので、日本酒好きにはたまらないスポットだ。また、町内には温泉や記念館もあるので、ゆっくりと滞在するのもおすすめだ。
北海道新十津川町と奈良県十津川村。一見、遠く離れたこの二つの町村を結ぶ絆は、まさに日本の原風景そのものだ。その絆を酌み交わす「郷の心」は、私たちの心に深く刻まれる一杯となるだろう。