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投票所の壁を越えて 上田市長選で広がる「誰もが投票できる街」への挑戦

投票所の壁を越えて 上田市長選で広がる「誰もが投票できる街」への挑戦

投票所の壁を越えて

上田市長選挙の告示日が近づく3月初旬、上田市役所1階の「つむぎラウンジ」に集まった30人ほどの人々。彼らは投票体験会に参加するため、自閉症のアーティスト石村嘉成さんの作品を前に立っていた。

「この絵を選挙の立候補者だと思って、投票してみてください」

実行委員会のメンバーが優しく声をかける。参加者の中には、障害のある人、その家族、支援者、市職員の姿も。作品を選び、投票用紙に記入し、投票箱に投じる。その一連の動作が、多くの人にとっては日常の行為だが、障害のある人にとっては越えなければならない壁が存在する。

投票の権利、その重さ

「視覚障害者が選挙で投票する際の実態調査で、投票所へのアクセスなど、何らかの問題があると答えた人が半数超に上っていた」

共同通信の調査結果が示すように、投票の権利は憲法で保障されているものの、その実現には多くの課題が残されている。昨年4月の改正障害者差別解消法施行で合理的配慮の提供が義務化されたとはいえ、投票所のバリアフリー化はまだ道半ばだ。

「投票所が遠い」「投票所に行く手段が少ない」「点字投票や代理投票への対応が悪い」「投票の秘密が守られているか心配」

視覚障害のある873人の回答から浮かび上がるのは、投票所までの物理的な距離だけでなく、心理的な壁、制度的な壁が複雑に絡み合っている現実だ。

上田市の挑戦

上田市選挙管理委員会は、この現状を変えようとしている。Facebookの投稿によると、今回の選挙では「おうちの大人と一緒に投票所に来場せよ! 」というミッションをクリアすると、霊夢と魔理沙のカードがもらえるというユニークな取り組みを実施。子どもたちを投票所に誘導し、投票の大切さを家族で体験する機会を提供している。

しかし、これは氷山の一角に過ぎない。上田市は2021年に第3次上田市障がい者基本計画を策定し、障害者の社会参加を推進する方針を打ち出している。市内のバリアフリー施設一覧を見ると、公共施設の整備は進んでいるものの、投票所のバリアフリー化はまだ緒についたばかりだ。

声なき声を集める

「手話と筆談で有権者の声を集める…」

CBCドキュメンタリーの映像に映るのは、聞こえない、話せない市議会議員の姿だ。コミュニケーションが欠かせない議会活動はどう行われているのか。その答えは、手話通訳者や筆談を介した丁寧な対話の中にある。

上田市でも、同様の取り組みが広がりつつある。選挙管理委員会事務局のページには、2025年の市長選・市議選の投票日決定とともに、立候補手続きなどに関する説明会開催の案内が掲載されている。しかし、この説明会がどの程度、障害のある人にもアクセスしやすい形で行われているのかは、まだ見えてこない。

投票所のバリアフリーとは何か

総務省が公表した「投票所のバリアフリー」ガイドラインによると、投票所には車椅子用スペースの確保、点字投票用紙の設置、補助者の同伴投票の許可などが求められている。しかし、実際にはどうなのか。

選挙ドットコムの記事によると、一部の地域では選挙時に無料の巡回バスやタクシーが利用できるものの、多くの地域では選挙時の特別な移動介助はない。そのため、普段利用している介護タクシーやガイドヘルパーなどにお願いして会場へ向かうのが一般的だという。

上田市のバリアフリー施設一覧を見ると、市内の公共施設は比較的整備が進んでいるものの、投票所となる公民館や集会所の中には、まだバリアフリー化が不十分な場所もあるのが実情だ。

投票体験会の意味

「障害の特性で投票を棄権する人がいる」

上田地域の障害者支援団体などでつくる実行委員会が開催した投票体験会は、この現実を変えようとする小さな一歩だ。自閉症のアーティスト石村嘉成さんの作品を立候補者に見立て、参加者に投票体験をしてもらうことで、障害のある人が投票する際の不安や困難を共有しようとしている。

実行委員会のメンバーは言う。「18歳になると誰もが手にする選挙権。障がいの有無に関係なく平等に選挙に参加して、社会の一員として政治に関わることを望んでいます。」

この言葉に込められた願いは、単に投票所の物理的なバリアを取り除くことだけではない。投票することの意味、政治に参加することの意義を、一人ひとりが実感できる社会をつくることだ。

私たちにできること

NPO法人障害をもつ人の参政権保障連絡会が2022年5月に発行した「知的障害者・家族・支援者のための選挙のしおり」は、マスコミにも取り上げられ、障害のある人の投票についての関心を広げた。このような地道な活動が、社会の意識を変えていく原動力となる。

あなたの街の投票環境改善、ありましたか? Jd実態調査では、各地の投票所でどんな改善の動きがあったか、率直な声や事例を募集している。来たるべき総選挙に向けて、さらに取り組みを進めていくために、私たち一人ひとりの声が必要だ。

投票所の壁を越えて

上田市長選挙を前に、私たちは問われている。投票の権利とは何か。民主主義とは何か。障害のある人にとって、投票するとはどういうことなのか。

投票体験会に参加したある母親は言った。「子どもが投票する姿を見て、私たち家族にとっても大きな意味がありました。投票は当たり前のことではないんだと気づかされました。」

投票所の壁を越えるために、私たちにできることは何だろう。それは、声なき声に耳を傾け、一人ひとりの投票が尊重される社会をつくること。その第一歩は、上田市長選挙から始まるのかもしれない。

今週末、あなたも上田市役所1階の「つむぎラウンジ」を訪れてみてはいかがだろうか。自閉症のアーティストの作品に触れ、投票体験をしてみる。それが、投票所の壁を越える旅の始まりになるかもしれない。

(了)

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