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空き家をセーフティネットに—岸和田の挑戦

空き家をセーフティネットに—岸和田の挑戦

城下町の静けさを破るのは、時折聞こえる子供たちの笑い声だけだ。岸和田市内の一角にある大阪府営住宅の一室。ここはもう長い間、誰も住んでいないはずの空き室だった。

「実は、ここが今、とても大切な役割を果たしているんです」

そう語るのは、岸和田市社会福祉協議会の職員、田中さん。彼女が案内してくれたのは、DV被害者や困窮者のための緊急シェルターとして生まれ変わった空き室だった。

「この部屋が空き家のままだったら、どれだけの人が路頭に迷っていたか。今では命を救うセーフティネットになっているんです」

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地域資産の再生—「あるのに使えない」ジレンマの打破

岸和田市の空き家問題は深刻だ。市の調査によると、2023年時点で約8,000戸の空き家が存在し、その数は年々増加傾向にある。老朽化した建物は防犯や防災のリスクを高め、景観を損なうだけでなく、地域コミュニティーの衰退にもつながっている。

「空き家は単なる不動産問題ではなく、地域の生命力そのものに関わる問題です」

市住宅政策課の担当者はこう語る。しかし、その一方で、住居に困る人々も少なくない。この「あるのに使えない」というジレンマをどう解決するか。

府営住宅を借り上げ—革新的な取り組み

岸和田市が行った画期的な取り組みは、大阪府営住宅の空き室を「目的外使用」という行政手続きで借り上げ、民間助成金を活用して緊急シェルターとして再生するというものだ。

「本来、府営住宅は低所得者向けの住宅ですが、緊急時には別の用途に使うことができるんです」

市住宅政策課の山田課長は説明する。この取り組みにより、市内の3戸の府営住宅(いずれも2DK)が、DV被害者や住居喪失者のための一時避難所として生まれ変わった。

「ここには、家を追い出されたシングルマザーや、DVから逃れてきた女性たちが身を寄せています。彼女たちにとって、この部屋は命を守る砦なんです」

実際にシェルターを利用したAさん(仮名)は、涙ながらに語る。

「夫からの暴力から逃げてきた時、どこにも行く場所がありませんでした。でもここで命を救われたんです。子供と一緒にゆっくりと次の一歩を考えられる場所を与えてもらいました」

地域全体で支える仕組み

この取り組みが可能になった背景には、地域全体の連携がある。市社会福祉協議会、住宅管理業者、地元ボランティア団体が一体となって、入居者の生活支援を行っているのだ。

「単に部屋を提供するだけでは不十分です。心のケアや生活再建の支援が必要なんです」

社会福祉協議会の田中さんは強調する。実際、シェルターでは心理カウンセリングや職業訓練、子供の学習支援など、多角的な支援が行われている。

古民家再生—観光資源への転換

空き家問題への取り組みは、緊急シェルターだけではない。岸和田市では、古民家を観光資源として再生する動きも活発だ。

「岸和田には城下町の風情を残す美しい古民家がたくさんあります。それらを活用しない手はありません」

こう語るのは、地元NPO法人「岸和田古眠家Base(KKB)」の代表、中村さん。同団体は古民家の仲介事業や、古民家を利用した体験プログラムを展開している。

「古民家に移住して地域に溶け込む体験プログラムは、特に人気です。都会の喧騒を離れ、伝統的な暮らしを体験したいという人が増えています」

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行政と民間の連携

岸和田市の空き家対策の特徴は、行政と民間が緊密に連携している点にある。

「市だけでは限界があります。民間の知恵と力を借りることで、より創造的な解決策が生まれるんです」

市住宅政策課の山田課長は語る。市は空き家の所有者に対して、利活用支援制度を設け、協力事業者を紹介するなど、空き家問題解決に向けた包括的な支援を行っている。

地域の未来を切り開く

「空き家は地域の資産です。その価値を再発見し、新しい形で活用することが、地域の未来を切り開く鍵になるんです」

中村さんの言葉が重く響く。岸和田市の取り組みは、単なる空き家対策にとどまらない。地域の課題を解決しながら、新たな価値を創造する、持続可能なまちづくりのモデルなのだ。

夕暮れ時、シェルターの一室から聞こえてくる子供たちの笑い声。それは、かつて誰も住んでいなかった空き室から生まれた希望の音だ。岸和田の挑戦は、全国の空き家問題に悩む自治体にとって、希望の光となるだろう。

この春、岸和田市では「古民家利活用セミナー」が開催される。地域の伝統と革新が融合するこの街で、空き家が新たな価値を生み出す瞬間に立ち会ってみてはいかがだろうか。

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