瑞浪の水をめぐる闘い〜リニア工事と地下水のゆくえ
静かな山里の日常が、突如として揺さぶられた。岐阜県瑞浪市大湫町。かつて豊かな湧水に恵まれたこの地で、住民たちは地下水の枯渇に直面している。その原因は、地下深くを走るリニア中央新幹線のトンネル工事だ。
2024年2月、JR東海が設置した観測井で異変が確認された。水位が日に日に下がり、やがて井戸が枯れ始めた。住民の田中明美さん(仮名・70)は「蛇口をひねっても水が出ない日が続き、本当にパニックになった」と振り返る。水田は荒れ、家庭菜園も枯れ果てた。
この問題は一朝一夕に起きたわけではない。瑞浪市では2018年からリニアのトンネル工事が始まり、その間にも小規模な水位低下は確認されていた。しかし2024年2月の急激な低下は、住民の不安を一気に高めた。
JR東海は当初、工事との因果関係を明確にせず、対応を渋った。しかし住民の強い要望と県の介入により、2024年5月にはトンネル工事を一時中断。ボーリング調査が行われた。
調査の結果、日吉トンネルの掘削により地下水脈が変化し、水がトンネル内に流出している可能性が高いことが判明した。「これは工事の影響である可能性が高い」。JR東海は2025年1月、住民説明会でようやく認めた。
水不足に苦しむ住民にJR東海が提案したのは、深さ約150メートルの新たな井戸の掘削だった。2025年6月から工事が始まり、2026年1月下旬の供用開始を目指している。しかし住民の不安は拭えない。
「本当にこの水で生活できるのか」。説明会で住民の一人が声を上げた。水質や供給量への不安、さらには工事による地盤沈下への懸念が根強い。
こうした中、JR東海は新たな対策を打ち出した。地下水回復のため、工事現場周辺の森林を間伐するというのだ。木々が水分を吸い上げるのを抑え、地下水位の回復を図る狙いだ。
「間伐は一つの手段だが、根本的な解決にはならない」と指摘するのは、環境問題に詳しい地元のNPO法人代表、山田浩二さん(65)。「そもそもなぜ水が流出しているのか、そのメカニズムをきちんと解明し、再発防止策を講じるべきだ」
住民たちの不安は、単なる水不足にとどまらない。地盤沈下の懸念も大きい。「水が減れば地盤も緩む。家が傾いたり、地割れが起きたりしたらどうするのか」。住民の一人は不安を口にする。
岐阜県は2025年6月、県環境影響評価審査会の地盤委員会を開催。JR東海に対し、より踏み込んだ対策を求めた。県の担当者は「住民の生活を守るため、あらゆる手段を検討している」と話す。
しかし問題は複雑化している。2025年2月には、リニア工事で発生する残土にウランが含まれている可能性が指摘された。これに対しJR東海は「安全基準を満たしている」と反論するが、住民の不安は増すばかりだ。
瑞浪市の水をめぐる闘いは、まだ始まったばかりだ。住民たちは「ただ水が欲しい」のではない。安心して暮らせる生活を取り戻したいのだ。
「この美しい水と緑を、次の世代に引き継ぎたい」。住民の一人は力強く語る。その願いは、単なる水不足の問題を超え、持続可能な地域づくりへの問いかけでもある。
リニア中央新幹線は、日本の大動脈となることを目指している。しかしその陰で、地域の暮らしや環境が犠牲になってはならない。瑞浪の水をめぐる闘いは、私たちに大切なことを問いかけている。
今週末、あなたも瑞浪を訪れてみてはいかがだろう。美しい自然と、そこに暮らす人々の思いに触れ、この問題を一緒に考えてみるのもいいかもしれない。