2028年、出水と水俣を結ぶ夢の高速道が開通する日
春の日差しがまぶしい2月のある日、私は出水市の中心部に立っていた。目の前には、まだコンクリートの柱だけが林立する南九州西回り自動車道の建設現場。2028年度の開通を目指して、工事は着々と進んでいるという。
「あと4年もすれば、ここから水俣までノンストップで行けるんですよ」
市役所の担当者は誇らしげに語った。私の頭に浮かんだのは、この道が開通することでどんな変化が起きるのかということだった。
命をつなぐ道路
南九州西回り自動車道は、熊本県八代市から鹿児島市までの全長約142kmを結ぶ高規格幹線道路だ。現在、そのうち約73%にあたる103.2kmがすでに供用されている。残る未開通区間は、水俣IC~出水IC間の16.3kmと、阿久根IC~薩摩川内IC間の22.4kmの2区間のみとなっている。
「特に水俣~出水間は、県境を越える区間なので、工事の難易度も高いんです」と市の担当者は説明する。実際、この区間では境川に架かる「境川橋(仮称)」の架橋工事や、長さ1101mの小田代トンネル、長さ1428mの中尾山トンネルの掘削が行われている。
2020年に小田代トンネル、2021年に中尾山トンネルが貫通したことで、大きな山越えの工事はほぼ完了。現在は橋梁の上部工事が進められており、2028年度中の開通に向けて工事は最終段階に入っている。
地域経済に与える影響
道路が開通することで、最も大きな恩恵を受けるのは地域経済だ。出水市は、かつては「出水の大鶴」で知られる自然豊かな田舎町だったが、近年は高齢化と人口減少に悩まされている。
「この道路が開通すれば、熊本や鹿児島とのアクセスが格段に良くなります。物流コストの削減、観光客の誘致、企業誘致など、経済効果は計り知れません」
市長の椎木伸一氏はこう語る。実際、すでに開通している区間沿線では、企業立地件数やインバウンドの増加など、ストック効果が顕著に現れているという。
災害時の命綱として
もう一つ、この道路が果たす重要な役割がある。それは、災害時の代替路としての機能だ。
九州は台風や豪雨による災害が多い地域。国道3号線はこれまで、九州自動車道と並行する形で整備されてきたが、内陸部を通るため、災害時に寸断されるリスクが高かった。
「南九州西回り自動車道は、海岸線に沿って整備されているため、内陸部の災害時にも迂回路として機能します。これは、住民の命を守るためにも重要な役割を果たします」
国土交通省九州地方整備局の担当者はこう説明する。
市民の期待と不安
市内の商店街を歩くと、道路開通に対する期待と不安が入り混じっているのが分かる。
「若い人が都会に流出するのを食い止めるためにも、交通の便が良くなるのはありがたい」
と話すのは、商店街で魚屋を営む70代の男性。一方で、
「道路ができれば、大型トラックが増えて騒音や振動の問題が出てくるのでは」
と懸念する声もある。
市は、こうした住民の声に耳を傾けながら、道路周辺の環境整備を進めている。騒音対策として防音壁の設置を進めるほか、沿線には公園や緑地帯を整備し、住環境の向上を図る計画だ。
開通に向けた取り組み
2028年度の開通に向けて、市はさまざまな取り組みを進めている。
まずは、道路周辺の土地利用計画の策定だ。市は、出水IC周辺を産業団地として整備する計画を進めており、すでに14.8haの産業用地の分譲を開始している。
「道路が開通すれば、物流拠点としての機能が高まります。そのためには、周辺の土地利用をどうするかが重要です」
市の担当者はこう語る。
また、観光振興にも力を入れている。市内には、出水麓武家屋敷群や出水市文化会館などの観光資源があるが、アクセスの悪さが課題だった。
「道路が開通すれば、熊本や鹿児島からの観光客が増えることが期待できます。そのための受け入れ態勢を整える必要があります」
市は、観光案内所の整備や、観光ガイドの育成などに取り組んでいる。
未来への期待
2028年、出水ICと水俣ICを結ぶ16.3kmの区間が開通する日。私は、その瞬間を想像していた。
熊本から鹿児島へ、快適な高速道路を走る車。その途中、出水市に立ち寄る観光客。市内の企業で働く人々。そして、災害時にこの道路を命綱として利用する住民たち。
「この道路が開通すれば、出水市の未来が変わる」
市長の言葉が、私の心に響いた。
開通まであと4年。出水市の挑戦は続く。
※この記事は、2026年2月の取材に基づいています。実際の開通時期や状況は変更される可能性があります。