岩岡の新たな足「つなぐ~る」が描く未来
あの小さなバスが、岩岡の風景を変える。
西神戸の山間に抱かれた岩岡町。かつては路線バスが行き交い、住民の足として欠かせなかった公共交通。しかし、過疎化と高齢化が進む中、その路線は次々と姿を消し、今や住民は自家用車かタクシーに頼るしかない状況が続いていた。
そんな中、昨年末から試験運行を開始したのが「岩岡コミュニティ交通つなぐ~る」だ。乗客定員4名の小さなセダン型車両が、火曜日と金曜日の週2日、岩岡町内を走る。運賃は1回200円と良心的。予約制で、地域住民の要望に応じて柔軟にルートを調整できるのが特徴だ。
「これまで最寄りのバス停まで徒歩20分かかっていたお年寄りが、今では自宅の目の前まで来てくれるんです」と話すのは、岩岡地域のコミュニティ交通を考える会の会長を務める田中さん(67)。同会は2021年に設立され、地域住民の合意形成のもと、市の支援制度を活用してこのプロジェクトを進めてきた。
試験運行が始まった1月6日、筆者も実際に乗車してみた。午前10時、岩岡公民館前を出発し、高齢者施設や商店、診療所などを巡るルートだ。乗客は近所のお年寄り3人と私の計4名。運転手は西神交通のベテラン、山田さん(58)。
「岩岡は坂道が多くて運転が大変ですが、住民の皆さんの笑顔が何よりの励みです」と山田さん。車内では乗客同士が世間話に花を咲かせ、まるで地域のサロンのようだ。岩岡に生まれ育ったという70代の女性は「これまでは病院に行くのも大変だったけど、今は安心。地域が元気になるきっかけになればいい」と目を細めた。
実は、この「つなぐ~る」、単なる交通手段以上の意味を持つ。岩岡はかつて炭鉱で栄えた歴史を持つが、その後は過疎化が進み、若者の流出も深刻だ。コミュニティ交通の導入は、住民の移動手段を確保するだけでなく、地域の絆を再構築する試みでもあるのだ。
神戸市では、鉄道や路線バスなどの既存の交通サービスが行き届きにくい地域に、新たな地域コミュニティ交通を走らせる支援制度を設けている。岩岡の取り組みは、そのモデルケースとして注目されている。
「高齢化率が40%を超える岩岡では、交通弱者を生まない仕組みが急務でした。コミュニティ交通はその一つの答えですが、単にバスを走らせるだけでは不十分。地域住民が主体となって運営に関わり、自分たちの足は自分たちで守るという意識が大切です」と語るのは、市の地域交通担当者。
試験運行は3月31日まで。その後、住民アンケートの結果を踏まえ、本格運行に向けた協議が進められる予定だ。課題もある。利用者の高齢化に伴い、予約や乗降のサポートが必要なケースも増えている。運転手の確保や車両のメンテナンスも継続的な課題だ。
それでも、岩岡の人々の表情は明るい。「地域の未来は、若い人たちに託したい。このバスが、岩岡に新しい風を吹き込むきっかけになれば」と田中さんは語る。
岩岡の小さなバスは、単なる移動手段を超え、地域の希望そのものになりつつある。私たちは、この小さな一歩が、過疎の町にどのような変化をもたらすのか、これからも見守っていきたい。
【DATA】 ・試験運行期間:2024年1月6日〜3月31日 ・運行日:火曜日・金曜日(祝日は運休) ・運賃:1回200円 ・予約方法:専用サイトまたは電話 ・車両:乗客定員4名のセダン型
岩岡の新たな足「つなぐ~る」。その小さな一歩が、地域の未来を大きく変えるかもしれない。あなたも、機会があればぜひ乗車して、岩岡の人々の笑顔に触れてみてはいかがだろうか。